リワークプログラム(復職支援)とは

リワークという取り組みの広がり



 井上によれば、わが国では一ヶ月以上の欠勤者の15%がメンタルヘルス関連の疾患で欠勤しており、そのうちの80%がうつ病であるといいます(文献1)。
 このような社会情勢を背景として、近年「リワーク」という言葉が社会に、なかでも職場で産業保健や人事労務に携わる人々に浸透してきています。「リワーク」とはうつ病などの気分障害で休業となった労働者を治療して職場復帰へ繋げる取り組みを指し、そのために医療機関が提供する診療行為を「リワークプログラム」と呼んでいます。
 筆者の知る限りでは、わが国で「リワーク」という活動を職場復帰支援の方法として医療機関ではじめて実践したのは、1997年のNTT東日本病院精神神経科(秋山 剛部長)であると思われます。

 すなわち、職場復帰を目指す社員に一定の場所と作業ノルマを用意し、そこでリハビリテーションを実施して復職準備性を高める、という発想でした。
一方、「リワーク」に特化したデイケアを行う医療機関としては、2003年に設立されたメディカルケア虎ノ門(医療法人雄仁会 五十嵐良雄理事長)が老舗です。
 さらに、これらの先人達が旗振り役となり、うつ病などの気分障害に罹った労働者が職場復帰を成功させるにはどのようなプログラムが有効なのかを科学的に検討することを目指して、2008年3月29日(土)にうつ病リワーク研究会が設立されました(2018年2月より一般社団法人日本うつ病リワーク協会へ再編。五十嵐良雄理事長)。

職場復帰支援のための「リワークプログラム」とは

 一般に,医療機関における復職支援の取り組みをリワークプログラム(Re-work program)と呼んでいますが,その目的は「単に復職を果たす」ことではなく,「復職後,再発なく就労を継続できること」にあります。再発予防や就労継続を支援するためには,作業能力の回復だけではなく,職場における対人関係能力の向上やストレス対処能力の改善,疾病受容と適応的自己の確立といった「リカバリー」への支援が本質的に重要です。したがって,リワーク(Re-work)の本質はReturn to workよりもさらに踏み込んだResilience Buildingにあると言えます。つまり,リワークは単に職場に戻るということを越えた,ライフキャリアを全うするための全人的な支援なのです(図1、図2)。(文献2、文献3)。

そして,これらの目的を可能にするためにリワークプログラムが備えるべき要素には

  1. 通勤を模倣して定期的に通所できる場所
  2. 厳しめのルールのもとで空間的・時間的に拘束させる枠組み・日課
  3. 一定のノルマがある作業プログラム
  4. 再発予防のセルフケアに繋がる心理社会教育プログラム

の4つが不可欠です。

【図1】回復過程のイメージ

【図2】リワークプログラムのコンセプト

 筆者(有馬秀晃)は拙著(文献4)のなかで、既にリワークプログラムを実践して5年以上経ち(10年以上の施設も含む)、企業、EAPや産業保健スタッフからの認知度が高く、互いが連携して復職社員を多く出してきた実績のある医療機関を調査したうえで、リワークプログラムとは何かについて解説を試みています。

 次に、リワークプログラムの発想の背景にもなった職場のメンタルヘルスに関する国の施策について取り上げます。

 職場のメンタルヘルス対策がますます重要となっている事態に対して、政府は平成12年(2000年)にいわゆる「4つのケア」の謳った「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(平成12年8月9日付け基発)」を示しました(図3)。
これは職場のメンタルヘルスに関して、「こういう対策をとるのが良い」という初めての指針でした。それ以前にも、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(昭和63年、平成9年改正)」のなかで、メンタルヘルスケアという言葉だけは出て来ていましたが、具体的な対策を示すものではありませんでした。
 そういう意味で、この指針はメンタルヘルスのためだけの単独のガイドラインということで、画期的なものでした。

【図3】4つのケア(役割分担と位置づけ)

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 また、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成16年10月14日公表、平成21年3月改訂、労働基準局安全衛生部労働衛生課)」のなかで、復職支援の流れは図4のようにモデル化されました。

【図4】厚労省ガイドラインとの対応

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 さらに「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成16年10月14日公表、平成21年3月改訂、労働基準局安全衛生部労働衛生課)」のなかの、「医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した労働者とは?」という項目をみると、図5のような要件が記載されています。

【図5】医学的に業務に復帰するのに問題がない程度に回復した労働者とは?

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 こうしたガイドラインは、うつ病などの気分障害で休業した社員が復職できる目安をモデル化し治療者側(精神科医ら医療機関)と企業側(産業保健スタッフ、人事労務担当者、所属上長など)に共通のコンセンサスを持たせることに寄与しました。
つまり、治療者側(精神科医ら医療機関)はこのガイドラインを満たすように患者さんを回復させ、その一方で企業側(産業保健スタッフ、人事労務担当者、所属上長など)は当該社員がこれらのガイドラインを満たしていることを確認して、職場復帰の支援を行うのです。

リワークプログラムの効果

 これまでに,リワークプログラム利用者が非利用者と比べて復職後の就労継続が良好だという報告がいくつかなされています。たとえば,五十嵐らが行った「6医療機関のリワークプログラム利用者」と「22企業の健康管理室より情報を得たリワークプログラム非利用者」の計323名に対して,propensity scoreによる共変量調整法を用いたマッチングを行い,そこで抽出した100名を対象にアウトカム指標を復職後の就労継続日数とした就労継続性の比較調査では,Log-rank検定の結果,リワークプログラム利用者は非利用者と比較して就労継続性が有意に良好でした(p=0.008)(文献5)(図6)。

【図6】復職後の就労継続性の比較

【参考、引用文献】
1.井上幸紀:メンタルヘルス対策-休職した人の職場復帰について-.予防医学,35:1-35(2005)
2.秋山剛.医療機関におけるリワークプログラム発展の歴史と最新の知見.最新精神医学23巻3号.P163-p168.2018年5月.
3.有馬秀晃.リワークプログラムでの復職準備性評価と再利用者への対応.産業精神保健 27:106-110, 2019
4.有馬秀晃:職場復帰をいかに支えるか―リワークプログラムを通じた復職支援の取り組み.日本労働研究雑誌.601:74-85(2010)
5.五十嵐良雄.リワークプログラム利用者と非利用者の就労予後に関する比較研究.研究代表者:秋山剛.厚生労働省補助金障害者対策総合研究事業「うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究」平成24年度総括分担研究報告書.東京:厚生労働省,2013:55-62.